過去に目を背けずに生きること

強い悲しみに襲われた時、私達はそれを必死に捉えようと様々な思考を巡らすものです。しかしそれが余りにも重く苦しいことである場合、思考を巡らすことすら出来ずただ一つの断片として心に陰を落としてしまうこともあるようです。ふと手に取った一編の小説は苦悩に立ち向かい、そこから再生した男性の物語が描かれていました。
海がある町に住む主人公は大きな台風が訪れた日の午後、近所の海岸へ出掛けます。台風の目に当たっていたため、辺りは不気味な程静かでした。20分ほどしたら家に帰ろうと思い、砂浜に腰を下ろし友達とその犬と遥か彼方にある地平線を眺めていました。その時何か恐ろしいことが起こると直感したのも束の間、大きな津波が襲い友達とその犬は帰らぬ人となります。このことがきっかけとなり、その瞬間に見た現実か錯覚か分からない光景が恐怖として心の底にいつまでも存在するようになりました。過去の一瞬にして起こったその出来事により、亡き友と過ごした思い出すら苦痛として刻まれます。そして何十年もの月日が経ち、友の残した絵を見てもう一度この海を訪れたことで彼の心は再生へと向かいます。それまでの葛藤や苦悩は計り知れないほどに強いもので、まるで大きな津波にこの男性の心が奪われてしまったかのように感じたものです。
この小説で強く刻まれたことは主人公が語る「恐怖から目を背くこと」でした。忘れたい出来事から逃げることは、自分を追い込み傷つけることを知りました。今まで生きてきた中で起こった様々な事柄は、胸の中の引き出しにしまってあります。もし過去が私を押しつぶそうとするのであれば、それに立ち向かうことで少しずつ未来は再生されていくのではないかと感じるのでした。

This entry was posted in 自分LOVE. Bookmark the permalink.

Comments are closed.