別れを恐れず出会いを信じて

今は亡きミュージシャンのある一曲にまつわるエピソードが忘れられません。この曲は海外アーティストの作品をカバーしており、日本語の詞で歌われています。てっきり別れた彼女のことを歌っていて、男性の弱さを表現した曲だと思っていました。しかし本当はこのシンガーの母親のことを歌っていることを最近知りました。この方の母が亡くなった時、その女性は本当の母親ではないことを父から聞かせられます。そして産みの母もまたこの世にいないことを知るのです。とても明るいメロディー乗せて歌われたこの曲がこんなにも深い意味があったなんて知らなくて、それを聞いた時茫然としたと同時に切なさが込み上げてきました。たくさんの音楽ファンを魅了してきたこの男性にこんな過去があったとは知る由も無かったのです。
時折このミュージシャンのアルバムを聴いては、昔観たライブを思い出します。パワーがあってソウルフルでカッコよくて人間味溢れていたあのステージに出会うことがもうないことを寂しく感じます。でもライブという場で彼が生きていた時間を共有していたことは、私の人生のかけがえのない思い出として残っています。
年を重ねるということは音楽や文学、また人との出会いが増えてゆくものです。そして出会いの分だけ別れも経験しなければいけないことを常々感じます。それでもたくさんの作品に出会いたいという自分の欲望を信じて、いつまでも文学や音楽を探求してゆきたいと思います。こうした気持ちを持ち続けることは人生を豊かにしてくれると信じているからです。

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