至極当たり前のことを鮮明に描く小説は面白い

登場人物達の心理描写や他愛もない会話もまた小説の面白さだったりします。スリリングでまるでジェットコースターにでも乗っているかのような展開の物語も好きなのですが、日常にあるごくごく当たり前のことを深く掘り下げて描いている作品に魅了されることも少なくありません。兄弟や母娘や女同士のおしゃべりやシュールなネタまで、小説を読みながら「これ、分かる気がする」と納得してうなずいてしまうこともあります。
昨晩読んでいた小説は、登場人物達の仕草や会話が詳細に描かれており、どんどんストーリーに引き込まれていったのでした。姉と弟と弟の彼女とのフレンチレストランでの食事は関係図がとても濃厚になっており、特に弟の彼女が心の中にあることを屈託なく口にするところが軽妙でした。そして姉である主人公が言葉を放った後に「もっとオブラートに包んで話せばよかった」と感じる胸の内も絶妙でした。シチュエーションは様々ですがこうしたことは、生活の至るところで展開されているし、「これはどこかで体験したことがあるかも」という思いがふと湧き上がったりもします。そして自分に重ね合わせたりして、楽しむこともあります。
人間の心情はパンドラの匣のようにも感じます。胸の内のことは自ら知りたくなければ蓋をしてしまえばよいと思うし、こうした逃避方法を何度もおこなってきました。しかしながら昨晩読んだ作品のように心理描写が鮮明な小説に出会うと、あの時の会話で閉ざしたパンドラの匣を思い出して、蓋を少しだけ開けてしまうこともあります。特段気にすることもなく、「あんなこともあったな」で流すことができる自分がいたりして、そこにまた意外な驚きを覚えるのでした。

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